今季も矢野雅哉の動きが目立つ。三遊間を割りそうなゴロ、二遊間を抜けそうなゴロ、普通なら安打になるような当たりをアウトにしてくれる矢野は「忍者」と呼ばれるようになり、守備だけでもチームに多大な貢献をしている。昨季からは、それに粘り強い打撃力が加わり一躍、チームの主力選手に躍り出た。昨季カープが勝てなくなった9月、22日の中日戦のこと。矢野は涌井秀章の投球に食らい付き、1打席で実に22球を投げさせてプロ野球の新記録を打ち立てた。年間では137試合に出場。495回も打席に立って112安打(打率2割6分)を放ち、それまで3年間の安打数35本を飛躍的に上回った。しかも打点38は小園海斗(61)、坂倉将吾(44)に次ぐチーム3位。得点圏打率も小園(3割4分1厘)に次ぐ2位(3割5厘)。さらに9月25日のヤクルト戦。新井貴浩監督が矢野の同じ打席で3回もヒットエンドランのサインを出した。空振りが許されない難しいプレーだが、彼ならチームの雰囲気を変えてくれるのではないか。そういう期待感の表れだったと思う。矢野の役割は、今季もこの点にある。彼なら何とかしてくれるだろう。矢野はシーズン前に「チームをまとめて引っ張っていきたい」と語っていた。課題は150キロ台の速球を右方向に引っ張るだけのパワーだったが、このところ長打狙いのフルスイングも見られる。春季キャンプでは昨季140キロ前後だった打球速度が147キロまで上がったという。現在の技や気迫にパワーが加われば〝鬼に金棒〟ではないか。今季の矢野のさらなる進化に期待したい。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「ヒロシマ人の生き方」

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