鍛錬された線質に魂が宿る。幼い頃から筆に親しみ、50年以上にわたる創作活動を重ねてきた。愛をテーマに人生の起伏をどう刻むのか、字に向かう時が一番楽しいという。書家で刻字作家の安達春汀さんの刻字展「愛は原動力」が4月23〜5月5日、広島三越7階画廊である。1989年からほぼ隔年で開催し20回目。個展に訪れる人の年齢層は年々広がり、東京の日本橋三越本店でも楽しみにするファンは多い。広島では厳島神社や護国神社の表額を奉納する。周年記念などに春汀さんの作品を求める経営者は少なくない。作家人生は山あり谷あり。だが、創作活動は〝呼吸〟のようであり、いつも心身を健やかにしてくれると話す。「1月にテーマを愛と決めた。愛は、新しい筆を下ろす時にいつも試しで書く字。書く人の経験や発想、人生観を映し出します。一つの文字で百種百様。愛の字を、初の試みで布のタペストリーに仕立てた作品を出展しています。しめ縄飾りを解いている時にふと思いつき、稲穂を筆に創作したところ、毛筆と違って意のままにならないが、淡墨がにじんでいく偶然の変化に魅了された」PTAの仲間をはじめ周囲の応援を受け、中区本通の永井紙店で初めて個展を開いた。三越は幼稚園のママ友の紹介で縁ができた。書道界で名をはせるが、実に自然体で朗らかな人柄が多くの人を引き付ける。「何より作品を観てもらいたい。三越の個展は長年お付き合いを頂いており、そのことを幸せに思う。芸術の世界は広く無限に深い。完成ということがなく、はるかな未踏の地へ向かって歩き続けている心地がします。難しければ難しいだけ熱が入る。時を忘れて難関を突破したと思える時の感動が魅力です。文字に向き合う無心の愛(エネルギー)につき動かされ、創ることへ意欲が湧いてくる繰り返しです」熊野筆で画いた。広島を愛する心は誰よりも大きい。
担当記者:藤井