シーズン前。「誰に期待するか」というファンへの質問で一番多かった答えが「二俣翔一」だった。育成選手からはい上がった5年目の22歳。内野手登録だが、内外野の全ポジションをこなすユーティリティープレーヤーである。昨季は1軍に昇格してから一度も2軍への降格はなく、80試合に出場。さらに代打、代走、守備固めに起用された。107打数21安打(打率1割9分6厘)、1本塁打、7打点、1盗塁。数字だけを見るとさみしく感じられるが、それでもこれほど期待感が大きい理由は、いったい何だろうか。まず一つは非凡な打撃センス。現在の打ち方はDeNAの好打者・宮崎敏郎をモデルにしたもので、左足を浮かしグリップを軽く上下に動かしながら構える。そうすることで球を長く見ることができるという。その結果、いっそうミート力が高くなった。3月29日の阪神2 回戦。彼は右へ左へとプロ初の3安打(猛打賞)を放ち、今季の目玉になることを予感させた。もう一つは思い切りの良い守備。翌日の3回戦。カープ2点リードで8回無死一、三塁の大ピンチで阪神8番、木浪聖也の強烈なライナー打球にダイビング。もしこれを捕球できなければ1点差。後ろにそらせば同点。「絶対に捕る」。猛ダッシュしてきた中堅手・二俣の超美技が今季カープの初勝利を生んだ。しかし、その3日後(4月2日)のヤクルト戦。二俣はバントの自打球を顔面に受け、口内を8針も縫う負傷。それでも戦う二俣の姿は、今日のカープの姿を象徴している。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「ヒロシマ人の生き方」

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