親会社のキユーピー(東京)執行役員生産本部長から2月に就任。新中期経営計画(2025〜28年度)もスタートし新たな体制で、さらなる飛躍と企業価値向上を目指す。キユーピー時代の経験を生かして注力する事業や環境への取り組み、今後の展望などを聞いた。

―キユーピー時代の仕事内容は。

1992年にキユーピーへ入社しました。当時の会社は、翌年に中国でマヨネーズ、ドレッシング、サラダの製造を手掛ける北京丘比食品有限公司を設立し、94年からマヨネーズを皮切りに本格発売するタイミングだったことから、私も入社3年目に現地に赴任して原料調達や設備導入のほか、採用や指導などマネジメント業務を担当。言葉や文化の壁には苦労しましたが、若いうちにそうした経験をしたことで海外に対するハードルがぐんと下がりました。国外市場への参入や原料調達などに積極的に挑戦していきたいと、意識が変わるきっかけになりましたね。直近に生産本部長として北米や東南アジアなどの拠点を統括していたのも、20代の頃の原体験があってこそだと思います。

―アヲハタでの海外取り組みは。

ジャムに使うフルーツ類の調達ネットワークを生かし、キユーピーの中国法人への原料配給サポートを拡大し始めています。中国国内の調達に加えて米国・カナダなどの北半球とチリ・南アフリカなどの南半球といった、生産時期の異なる地域からも仕入れることで持続的な原料調達を図ります。このほか、稼働率や品質管理の向上を狙い手作業の工程を機械へ切り替えるなど設備投資も進めていきます。

―主力のジャムの注力事項は。

今年で発売55周年を迎える「アヲハタ55」など基幹商品の磨き上げです。特に、品質の良さなどから海外で人気を博す国産イチゴの研究に注力していきたい。6年前から運営している三次市のアヲハタ果実研究所では、ジャムに適したイチゴ(約160種類)を中心にフルーツの育種・栽培技術を研究。品種開発には10年以上かかることもあり、実はかなりの長期戦です。ジャムは複数の品種をブレンドして作り上げるため、色鮮やかで糖度が高い品種のみならず、見た目が多少悪く酸っぱいイチゴでも実は必要な要素となる。今年は「アヲハタ55」シリーズの全商品をリニューアルし、イチゴジャムは甘酸っぱく爽やかな味わいに仕立てた春夏限定「さわやかブレンド」と芳醇(ほうじゅん)で濃厚な甘みの秋冬限定「濃厚ブレンド」の2種類で季節ごとに展開していきます。これまでのアヲハタの歴史を大切にしつつ、商品のブランド価値をより向上させたい。

―冷凍食品にも参入しています。

2023年に発売した果汁づけの冷凍フルーツ「くちどけフローズン」は手軽にフルーツを摂取できると好評です。第1弾のいちごを皮切りに青りんご、白桃、アプリコットなどラインアップを拡充しています。中期経営計画では、同事業の売上比率を28年度までに現在の2%から10%へ伸ばすと定めました。

―環境経営の取り組みについて。

企業メッセージ「フルーツには続きがある。」の通り、1932年の創業以来、みかん缶詰の製造工程で出る外皮や残った実、内皮を食品原材料とするなど無駄のない生産サイクルを確立してきました。今後も持続可能な社会の実現に貢献していきたい。昨年5月には、ジャムなどの製造過程で発生する食品残さを養豚飼料に活用する取り組みを始め、残さ年間発生量の約25%の有効利用を見込む取り組みにつなげました。このほかスタートアップ企業のファーメンステーション(東京)と連携し、残さを原料にしたエタノールの発酵と精製に成功。除菌、消臭効果があるエタノール配合のウェットティッシュを共同開発し、今春から株主や取引先などに配布しています。

―竹原市の印象は。

海に面した下関市で生まれ育ったこともあり、穏やかな瀬戸内が間近で懐かしさを感じました。これまでの海が見えなかった勤務先に比べ、やはり絶景が見える職場はリラックス効果はもちろん集中力も増す気がしており、仕事がよりはかどりそうです。

プロフィル

うえだ としやアヲハタ社長。1968年10月26日生まれ、山口県下関市出身。東京農業大学農学部を卒業し、92年にキユーピー入社。挙母工場長、生産本部生産企画部長などを経験。2018年3月に現地法人の北京丘比食品有限公司で工場長に着任した。帰国して20年8月からは生産本部副本部長、生産本部長、執行役員生産本部長を経て25年2月から現職。趣味は世界遺産巡り。

担当記者:阿戸

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